不妊治療等に関するオンラインカウンセリング利用者の48%がプレゼンティズム改善

– 生殖に関する困りごと・悩みへの対応が業務パフォーマンスにも影響する可能性を可視化 –

不妊治療可視化アプリ「ninpath」を提供する株式会社ninpath(本社:東京都港区、代表取締役CEO:神田大輔)が経済産業省令和4年度フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金における補助事業者として実施した「不妊治療当事者のウェルビーング向上のための心理ケア事業」の最終報告をいたします。本事業にご協力いただいた自治体様、医療機関様ならびにご利用いただいた皆様に、この場を借りて改めて御礼申し上げます。
なお、本事業と同じ内容のサービスは引き続き提供しており、今後もサービスを通じて、子どもを望む人の意思決定に伴走し、安心して多様な選択肢が取れる社会をつくることを目指して取り組んでまいります。

今回ninpathでは、不妊治療当事者のウェルビーング向上のための心理ケア事業として、主にオンラインカウンセリングの利用に対する効果測定を行なった。
不妊治療中や産後など「産むこと」に関連する中でケアの必要性が高い心理カウンセリング、正しい医療情報提供のニーズが高い不妊カウンセリング、「産むこと」とは切り離せない課題となっている仕事との両立などに係るキャリアカウンセリングの3種類のカウンセリングを提供し、本事業の共通指標である業務パフォーマンス(WHO-HPQのプレゼンティズム)を用いてその効果を実証した。

効果測定のサマリー

  • カウンセリングの前後で利用者の48%にプレゼンティズム(業務パフォーマンス)の改善が見られた。
  • 利用後の満足度調査では、94%の方が満足と回答し、不満と回答した方はいなかった。
  • 利用されたカウンセリングの種類を問わず、全体で74%の利用者が「妊娠・不妊治療に対して心理的に楽になった」と回答し、「妊活や不妊治療に対して前向きになった」と回答した方も54%だった。

利用されたカウンセリング内容

  • 生殖心理カウンセラー(臨床心理士/公認心理師)による個人向けの「心理カウンセリング」の利用が最も多く49%(72件)を占め、同じくカップル向けの心理カウンセリングも7.5%(11件)の利用があった。
  • 不妊カウンセラーによる治療に関する情報提供を目的とした「不妊カウンセリング」は、各自治体での不妊相談事業等でも扱われているものの26.5%(38件)の利用があった。
  • キャリアコンサルタントによる治療と仕事・キャリアの両立等を扱う「キャリアカウンセリング」は17%(25件)の利用があった。
  • 相談の約半数は複数の専門領域にまたがる内容となっており、2回目のカウンセリングを受けた(利用者の15%)方の70%が初回と2回目では異なるカウンセリング種類を選択された。

利用者の属性

  • 利用者は不妊検査・タイミング法・人工授精の一般不妊治療(第二子以降の治療を含む)を受けている方が23.7%、体外受精や顕微授精の高度不妊治療を受けている方(第二子以降の治療を含む)が57.9%で、全体の約82%が不妊治療中の方だった。
  • 治療を(一旦)中止・終了されている方が9.6%、妊活や不妊治療前の方を含めたその他の利用者も8.8%に上ったことも、今回「産むこと」に関して対象者を広げて募集したことの効果によるものと想定される。​
  • 男性単独での申し込みとカップルで利用された方を合わせると、利用者の12%が男性となった。不妊治療の保険適用で男性の受診が促進されたこと等も相まってか、男性の参加意識が変容していることが示唆された。
  • 利用者の属性は幅広く、不妊治療中の方、流産/死産をされた方、DINKSを選択された方、子どもを持つか悩んでいる方、選択的シングルマザーを検討されている独身の方、ライフプランに悩む学生の方、第二子以降を検討中の方、産後(産育休中)の方など、非常に多様な属性の方にご利用いただいた。
  • 先行して3つの自治体で利用者の募集を行った結果、宮城県仙台市が16%、富山県と神奈川県藤沢市がそれぞれ5%で全体の1/4が協力自治体からの利用となった。オンラインでの実施のため全国からご利用いただいたが、東京都からの利用が20%と最も多かった。

利用満足度

任意で回答いただいた利用後アンケートにて、「カウンセリングの満足度はいかがでしたか?」との問いに5段階で評価をいただいた。

  • ​任意回答としたにも関わらず89件の回答があった
  • 94%の方が満足と回答し、不満と回答した方はいなかった

利用後の変化

事後アンケートにて「カウンセリングを受けた結果、どのような良い影響がありましたか(あてはまるものにいくつでも〇を付けてください)」との質問に回答いただいた。

  • 利用されたカウンセリングの種類を問わず、全体で74%の利用者が「妊娠・不妊治療に対して心理的に楽になった」と回答した。
  • 「妊活や不妊治療に対して前向きになった」と回答した方も半数以上の54%となった。
  • 「その他」には「考え方が少し変わった」「気持ちがスッキリした」「もっと相談したいと思った」といった回答が見られた。また、利用者の属性が不妊治療中の方以外にも幅広かったことから、適切な選択肢がなかった可能性も考えられる。

業務パフォーマンスへの寄与

本事業の成果を示す共通指標として、業務パフォーマンスへの影響をはかるWHO-HPQのプレゼンティズムが用いられた。

  • 事前・事後アンケートの回答を比較する形で算出。有効回答数83のうち、約半数の48%にプレゼンティズムの改善が見られた。
  • 本事業での結果は実施後2〜3週間で調査時点での改善で、今後の時間経過や継続利用により更なる改善が期待される。

カウンセリング種類別にプレゼンティズムが異なるかについても検証した結果、統計的有意差ではないものの傾向差が見られた。

プレゼンティズムについて(補足)

  • プレゼンティズムは「出社しているものの、何らかの健康問題によって業務効率が落ちている状況」のことで、心身に不調をきたしている状態であるため、業務パフォーマンスが十分に発揮できず、生産性が低下するため、企業にとって「可視化されづらい損失」ともいわれており、不妊治療等によって引き起こされている影響も多いものと想定される。
  • WHO-HPQプレゼンティズムの算出方法としては、絶対的プレゼンティズムと相対的プレゼンティズムの2つがあるが、本報告では日本人の特性から適しているとされる相対的プレゼンティズムを用いている。
  • 相対的プレゼンティズムは基準が1.0で、低いほどパフォーマンスが低下、高いほどパフォーマンス良好とされる(範囲は0.25~2)。
  • 経済産業省 平成27年度健康寿命延伸産業創出推進事業(ヘルスケアビジネス創出支援等)「健康経営評価指標の策定・活用事業」東京大学政策ビジョン研究センター健康経営研究ユニットの報告書によると、日本人の相対的プレゼンティズムの平均値は0.92。

利用後のフィードバックコメント

カウンセリングご利用後に任意で回答いただいたアンケートでの、フィードバックコメントの一部を掲載させていただきます。
※入力時に掲載の許可を得ていますが、固有名詞等の特定し得る文言については編集させていただいております

心理カウンセリング(個人・カップル)ご利用の方

  • 正しい言葉ほど弱ってしまう今の私に、全面的に味方でいてくださり、道標を提案してくださって、まいっていた心がすごく楽になりました。(30代女性)
  • 夫との治療に対する気持ちのすれ違いを感じてストレスだったが、目から鱗な視点でのアドバイスでポジティブに取り組めるようになった。(30代女性)
  • まとまりのない話も丁寧に聞いてもらい、誰にも話した事がない内容をお話しする事で、自分自身の気持ちを改めて知る事ができて、とても良い時間になりました。(30代女性)
  • どうせ決めるのは自分自身だから、カウンセリングを受けても何も変わらないだろうと思っていましたが、実際相談してみたら次の一歩がすぐに決まった。心にすーっと風が吹いていったかのような爽やかな気持ちです。(30代女性)
  • 不妊治療の末に妊娠するも、流産してしまい、本当に辛い気持ちでしたが、短い時間で私の性格を理解してくださって、自分の気持ちを整理でき、楽になりました。立ち直るきっかけを与えていただいて感謝している。(30代女性)
  • 引き出す質問をしてくださり、気づいたら自分の気持ちが話せているような感じで、終わってみたらポジティブな気持ちが溢れていて自分でもびっくりしました。これからまた前向きに治療を進められそうです。
    (30代女性)
  • 思考のクセやごちゃっとした課題を丁寧に紐解いて、整理してもらい、とてもスッキリ!心理カウンセリングのイメージがいい意味で覆り、自分のメンテナンスとして定期的に受けられたら最高だと思った。(30代女性)
  • 生殖心理カウンセラーでないと難しいセンシティブな内容の話ができて本当に満足です、継続利用したいです。(40代女性)
  • 初めてとは思えないぐらいスムーズな会話で、少しの事前情報で多くを汲み取ってくれた、信頼して話せた。(30代女性)
  • 過去1番のどん底&情緒不安定で精神的に限界で、自分で消化できる状態ではなかったところを、丁寧に整理いただいて、落ち着くことができました。やっぱりプロは違うと思いました。SNSで見かけてすぐ翌日の夜にカウンセリングが受けられてラッキーでした。おかげさまで前を向けそうです。(40代女性)
  • 夫である自分の気持ちをすばらしく言語化していただき、妻とのわだかまりも取れました。不妊治療への向き合い方としてこれまでの自分の行動を振り返り、今後どんな点を意識して取り組めばよいのか具体的に見え、非常に良い時間でした。(30代男性)
  • 夫婦だけで話すと堂々巡りになるような話も、夫婦2人の気持ちに寄り添って聞いてもらえ、前に進めるようになります。(30代女性)
  • 不妊治療の場合、女性と男性が治療に取り組む意識や方針の違いから、夫婦間に衝突が起こりがちだが、生殖専門のカウンセラーさんだと、夫婦間の温度差をうまくすり合わせてもらえる。非常にありがたい存在であり、カウンセリングは不妊治療にとって必ず必要なプロセスだと実感した。(50代男性)
  • 夫婦の妥協点をうまく導いてくれて、良好な関係で治療に向き合えている。(30代男性)

不妊カウンセリング(治療相談)ご利用の方

  • 多角的な視点で情報を整理してくださったので、本当に参考になり、治療に対する気持ちも安定した。治療仲間と話をするのとはまた違って、治療の相談をするならやはりプロが良いことを実感した。(30代女性)
  • 豊富な知識で、クリニックでは時間が気になってしっかり質問できなかったことも丁寧に教えていただきました。ネットにはいろんな情報が出ているので逆に迷ってしまうこともあるが、今の治療はとても妥当で、自分に必要な検査や治療ができていることに納得できて、焦る気持ちも落ち着いた。また相談したい。(30代女性)
  • 正しい情報収集が困難な不妊治療ですが、客観的な説明で冷静になれた。保険内診療は諦めていたが、考え直すきっかけに。男性の精索静脈瘤の可能性などを知ることができ、これをきっかけに夫としっかり話し合える機会をもてた。(30代女性)
  • 不妊治療に関する基本的な事項から丁寧に教えていただけて、前向きに治療に望めそうです。夫婦での話し合いについてもアドバイスいただいて有意義でした。(30代男性)
  • クリニックの資料だけでは体外受精の治療について把握するのは難しかったが、メリット/デメリット含め正しい情報をわかりやすく示してもらえ、今後のステップを考える材料が増えてとても良かった。(30代女性)
  • とても親身になって話していただき、各種治療法についての説明もわかりやすく、夫婦ともに治療に対する不安や迷いを除くことができました。お互いに仕事が休みの土日に使えたのも大きかったです。(30代男性)
  • 地方在住で体外受精についてなかなか深く話ができる方とは出会えません。知り合いにも上手く相談出来ませんので、このカウンセリングの時間は大変貴重でした。 教えて頂いたことや励ましの言葉などのアドバイスは、今後の妊活の支えになります。(40代女性)
  • 今後の方向性など、今まで答えが出ず一人でモヤモヤしていたことが、明確化しスッキリすることができました!ただ話を聞いてもらうだけではなく、統計的なお話やアドバイスも頂けたことは想像以上に良かったです。改めてこのような機会があることは大切だと思いました。(40代女性)
  • 保険制度のこと、PGT-Aのこと、病院のことなど多岐に渡ってお詳しく、新しい情報をお持ちだったので、とても参考になりました。論文などの情報も含めてエビデンスに基づく信頼できるお話でした。病院では相談できないこと、相談しにくいことをじっくり聞ける機会は貴重で、今後も無料で受けられたらうれしいです。(30代女性)

キャリアカウンセリングご利用の方

  • ぼやっとした不安にも、意図を汲んでくださり的確なアドバイスで、実際の職場での相談の仕方などすぐに実践できました。不確定要素が多く、誰にも相談出来なかったので、今後のキャリアのヒントも得られ、カウンセリングを受けてよかった。(30代女性)
  • 新しく仕事を始めても不妊治療と両立することが出来るのか、悩んでいましたが、働くことに少し自信が持てました。このようなカウンセリングがもっと広まって、不妊治療に悩む多くの方々の支えになるといいと思いました。(30代女性)
  • 上司に不妊治療ついてどう伝えたら良いか整理でき、実際上司ともスムーズに会話ができ、通院しやすいようにサポート体制を整えると言ってもらえました。通院のストレスで精神的にだいぶ落ち込んでいたのですが、また前向きに頑張ろうと思えました。(30代女性)
  • 漠然としたキャリアの悩みについて、お話を聞いていただく中で整理されたように思います。また、育児・不妊治療と両立する観点でのキャリアの情報収集の仕方を具体的に教えていただきとても参考になりました。(40代女性)

本事業の実施概要

  • 主な事業内容:オンラインカウンセリングの提供、カウンセリング前後のWebアンケート調査
  • 実施期間:R4年10月24日~R5年2月28日
  • 協力自治体:宮城県仙台市、富山県、神奈川県藤沢市(2022年12月以降は全国に拡大)
  • 対象者:一般市民、生殖に関連する相談であれば年齢・性別は不問
  • 実施件数:147件、利用者数128名(1人最大2回まで利用可としたため)

アンケート等各種調査について
本報告の作成にあたり、利用者に対して3つの調査を実施した。

  1. 「事前アンケート」:本事業としてWeb形式でカウンセリング前に回答いただいた
  2. 「事後アンケート」:本事業としてカウンセリングの2~3週間後に、Web形式のアンケートに回答いただいた。※実施期間終了間際の利用者については、数日~1週間程度で実施した例もございます
  3. 「利用後アンケート」:本事業とは別に弊社独自でカウンセリング利用直後に利用者に対してアンケートを依頼し、任意で回答いただいた